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「うるさい……」
ふらふらとシノンがキッチンに入ってくる。不機嫌さは拍車が掛かり、深夜に無理矢理叩き起こされたかのようだった。
顔をひきつらせたワタルは言う。
「随分とお疲れで」
「あの連中がハイテンション過ぎるのよ」
言いつつシノンは冷蔵庫を開けた。牛乳瓶の蓋を開けて、中身を口に含む。それからキッチンに視線を移した。
「何作ってるの?」
「豚肉の味噌炒めとオニオンスープ。あのペースだともう少しで料理無くなりそうだし、リナやノエルにだけ作らせるのも申し訳ないからな」
「確かにそうね。あ、手伝うわよ」
「おう。なら頼──え!?」
今、この女はなんて言った?
今日一番の驚愕がワタルを襲う。シノンが、あのシノンが、あろうことか手伝うだと──!
「……宝くじの一等が当たったみたいな顔ね」
唇の端とかこめかみとかが蠢いているシノンだったが、ギリギリ噴火までは至らなかったらしい。鬱陶しそうに前髪を払い、
「私もあいつらのせいであんまり食べられてないからね。で、何すればいいの?」
「あー……、ならスープ頼む。後は煮込むだけになってるから、鍋見ててくれ」
「了解」
言ってシノンはワタルの隣に立った。材料を鍋に放り込み、定期的に灰汁を取る。一連の作業はスムーズで、手慣れていた。
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