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二人とも無言のまま、ワタルは炒めものに、シノンはスープに集中する。炒める音と煮える音だけが続き、ワタルとしては少し気まずい。女の子がすぐ横で料理しているのにどぎまぎしているのではなく、自分を手伝ってくれているという奇怪な状況に困惑している。
「シ、シノンは料理とかするのか?」
「休日ならたまに。授業ある日は面倒だし」
何とか出した話題は即座に封殺された。後が続かず、またもや口を閉じてしまう。
「……その料理、なんかのレシピに乗ってたの?」
ふと、シノンがフライパンに目をやって、そんなことを聞いてきた。変なことを訊くなと思いつつも、ワタルは料理を見たままで答える。
「いや、母さんがよく作ってたやつ。大人数相手に出すのが早いからって理由らしいけど──っと。シノン香辛料とかないか?」
「生憎そこまで取り揃えては無いわね。リナにでも訊いてみたら。──そう言えば、アンタの両親って宿やってたっけ」
「そんな立派なものじゃないけど、一応は。あと香辛料無いなら無いでいい」
ワタルは横に置いてあるオイスターソースをフライパンに少しだけ投下。それは落ちた瞬間に跳ねて、香ばしい匂いをキッチンに広げた。
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