理由と変化

25/42
前へ
/493ページ
次へ
二人とも無言のまま、ワタルは炒めものに、シノンはスープに集中する。炒める音と煮える音だけが続き、ワタルとしては少し気まずい。女の子がすぐ横で料理しているのにどぎまぎしているのではなく、自分を手伝ってくれているという奇怪な状況に困惑している。 「シ、シノンは料理とかするのか?」 「休日ならたまに。授業ある日は面倒だし」 何とか出した話題は即座に封殺された。後が続かず、またもや口を閉じてしまう。 「……その料理、なんかのレシピに乗ってたの?」 ふと、シノンがフライパンに目をやって、そんなことを聞いてきた。変なことを訊くなと思いつつも、ワタルは料理を見たままで答える。 「いや、母さんがよく作ってたやつ。大人数相手に出すのが早いからって理由らしいけど──っと。シノン香辛料とかないか?」 「生憎そこまで取り揃えては無いわね。リナにでも訊いてみたら。──そう言えば、アンタの両親って宿やってたっけ」 「そんな立派なものじゃないけど、一応は。あと香辛料無いなら無いでいい」 ワタルは横に置いてあるオイスターソースをフライパンに少しだけ投下。それは落ちた瞬間に跳ねて、香ばしい匂いをキッチンに広げた。
/493ページ

最初のコメントを投稿しよう!

965人が本棚に入れています
本棚に追加