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「──よし。こんなもんか」
ソースを軽く絡め、完成した味噌炒めを皿に移した。時間的にそろそろスープも出来上がるはずだ。鍋の中を覗こうとするが、
「ふーん。どれどれ」
そして横からシノンが手を伸ばす。止める間もなく、彼女は豚肉を一つつまんで口に放り込んだ。もぐもぐと咀嚼すること数秒。
「……よし。これなら勝った!」
握りこぶしを作ってワタルの方を向き、俗に言うどや顔をかましてきた。
カーン!! と。
ワタルの頭のどこかでゴングが鳴った。
「……勝ったってのはどういうことだ?」
「そのままの意味よ。私なら同じ品でこれ以上の味を出せるってこと」
「ほお、それはまた大きく出たな。てっきり調理器具ごと燃やす炎の料理人かと思ってたんだけど」
「……アンッタの偏見も筋金入りね。良いわ。なら勝負しようじゃない。勝った方は何でも一つ言うこと聞くってのはどう?」
「上等だ。あれが俺の本気と思うなよ。お前に敗北の屈辱ってもんを味あわせてやらぁ!!」
「ふん! そんなの返り討ちにしてやるわ!!」
クッキングタイムから一転してバトルパートに突入する二人。ワタルはフライパンを、シノンはお玉で武装して向かい合う。オニオンスープが煮えすぎて気泡がぼこぼこと沸いていることにどちらも気づいていない。
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