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王都ラグウェル。
人気の無い路地裏を青白い光が照らす。その光が収まると、一人の男の姿があった。
黒髪と藍の瞳。クラスマッチの祝勝会が終わってすぐ、ゼル=トゥグムはここにやって来た。
「……ふう」
寮内では禁止されていた煙草に火を点ける。紫煙を燻らせながら、ゼルは大通りに向けて歩きだした。
この街の匂いは、他の何処とも違う。活気という点ではアレストリアと大差ないだろう。仮にも王都だ。人口は一番多い。
だが、その比率は真逆と言えた。
アレストリアに居座る人の多くは店を構える商人であり、そこに種族の差はない。どれだけ金を稼ぎ、他人との信頼を築いているか。それがあの街で生活していく上でのステータスだ。
対して、ラグウェルに住んでいるのは半数が王から位を与えられた貴族達。王国の貴族の実に九割が居を構えている。エルフを始めとする他種族も滅多におらず、人が統べる街だ。
権力者のお膝元。国の中心地。華やかながらも冷たい、欲望が渦巻く場所。国王の意向で表立った差別は無くとも、拭いきれない選民意識がわかだまっていた。
(ワタルとレウス辺りは、今頃試験勉強に苦労してる頃かねぇ)
声には出さず、喉の奥で笑う。教え子の成長を見れたとあって、今日の彼は機嫌がいい。
だからこそ、これから始まる面倒事も許容できるのだ。
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