理由と変化

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王都は夜になると人通りが極端に減る。子供の夜遊びを警戒して、外出を禁じている家が多いのだろう。整備された街路にいるのは、おそらく『同業者』だ。 数分歩いて、そこにたどり着く。 白亜の城とでも呼ぶべき立派な建物で、扉の上の看板には赤を背景に二本の剣で十字を形作ったエンブレムがあった。 ギルド本部。王立魔導軍と対をなす、魔導士の一大組織の総本山である。 短くなった四本目の煙草を踏みつけて消火し、ゼルは中に入った。 内装は他の支部と大して変わらない酒場だ。今日も今日とて依頼を終えたギルド員が酒を飲んでいるが、アレストリアに比べると全体的に静かだ。この辺は街の雰囲気の差だろう。 ゼルは彼らの横を通り抜けると、金髪の受付嬢に用件を告げた。 「済まねえがマスターに取り次いでくれ。ゼル=トゥグムが待っているって言えば通じる」 「ああ、それなら既に承っています。執務室に来るように、とのことですよ」 「……相変わらず手回しが早いなあの人は。へいへい、りょーかいです」 ひらひらと手を振ってその場を後にすると、ゼルは奥の階段を登った。数ヵ月前の記憶を頼りに廊下を進み、扉をノックする。 「ゼル=トゥグムです。入っても?」 『ああ。待っていたよ』 ギルドマスター──ライオット=ファズラディオンの声が聞こえたので、扉を開けた。 「────」 室内の光景に少し、面食らう。机に座り何らかの書類にサインしているライオット以外に、先客がいたからだ。
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