理由と変化

33/42

965人が本棚に入れています
本棚に追加
/493ページ
その人物は黒づくめだった。上のコートも下のズボンも、一切の装飾がない黒。 しかし、ゼルを驚かせたのはその容姿だった。 灯りを受けて映える、金の髪。 宝石のような緑の瞳。 人にはあり得ない尖った耳。 なによりその顔が、自分の教え子に似すぎている。 「そちらのが先程話した“もう一人”だよ」 「おお、貴方がそうですか。良かった。是非一度ご挨拶したいと思っておりましたので」 ライオットの言葉を受けて、目の前の青年は嬉しそうに笑った。彼と同じように慇懃な態度で腰を曲げて、 「シュゼイン=ファウルです。──弟が、世話になっております」 あっさりと、ゼルの予想を肯定した。 「……そっすね。まさかこんなところで会えるとは思わなかった」 少し悩んでから、ゼルは敬語(といっともボロボロなのだが)で応じる。ラーサーにとって、この兄は立場上保護者であるからだ。曖昧に笑ってから、作業を中断したライオットに視線を投げる。 「で、どういうことすかマスター。さっきもう一人って言ってたってことは……」 「無論、二人共同じ用件でここに呼んだ」 「聞いてないっすけど」 「言ってないからね」 微笑と共に素っ気なくゼルに返してから、ライオットは立ち上がった。そのまま執務室を出ていき、ゼルとシュゼインはその後に続く。
/493ページ

最初のコメントを投稿しよう!

965人が本棚に入れています
本棚に追加