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その人物は黒づくめだった。上のコートも下のズボンも、一切の装飾がない黒。
しかし、ゼルを驚かせたのはその容姿だった。
灯りを受けて映える、金の髪。
宝石のような緑の瞳。
人にはあり得ない尖った耳。
なによりその顔が、自分の教え子に似すぎている。
「そちらのが先程話した“もう一人”だよ」
「おお、貴方がそうですか。良かった。是非一度ご挨拶したいと思っておりましたので」
ライオットの言葉を受けて、目の前の青年は嬉しそうに笑った。彼と同じように慇懃な態度で腰を曲げて、
「シュゼイン=ファウルです。──弟が、世話になっております」
あっさりと、ゼルの予想を肯定した。
「……そっすね。まさかこんなところで会えるとは思わなかった」
少し悩んでから、ゼルは敬語(といっともボロボロなのだが)で応じる。ラーサーにとって、この兄は立場上保護者であるからだ。曖昧に笑ってから、作業を中断したライオットに視線を投げる。
「で、どういうことすかマスター。さっきもう一人って言ってたってことは……」
「無論、二人共同じ用件でここに呼んだ」
「聞いてないっすけど」
「言ってないからね」
微笑と共に素っ気なくゼルに返してから、ライオットは立ち上がった。そのまま執務室を出ていき、ゼルとシュゼインはその後に続く。
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