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「一つ、訊いてもよろしいですか?」
「何をだ……ですか?」
「敬語が苦しいなら普通に話していただいて結構ですよ。年下ですし」
隣を歩くシュゼインは苦笑しつつ続けた。
「いえ、どうして五年にも渡り勧誘を蹴り続けたのかを。もし最初の段階で受けていれば、貴方は歴代最年少の偉業を為し遂げた人物として讃えられたでしょうに」
「生憎俺は、そんなのに興味はねえんだよ。注目なんてされたところで動きずらくなるだけだ。あとな──」
刃物のような鋭い視線は殺意すら帯びる。目を細めたゼルはシュゼインを睨み付け、
「詮索は結構だが、それなりに覚悟はしとけよ。誰にだって知られたくないことはある。そこから先は、俺の領域に土足で踏みいるのと同義だ」
「……なるほど。頭に置いておくとしましょう」
笑顔のまま追求を止めたシュゼイン。その様子を見て、ゼルは気づいた。
さっきから今まで、青年は一切笑みを崩していない。それは彼が穏やかな性格をしているのではなく、笑顔こそが仮面であり処世術なのだ。
自分の領域に不用意に踏み込まれないための予防線。その奥に何を潜めているのかを想像して、すぐに止めた。
先を歩いていたライオットが足を止める。英雄は自分の家のような慣れた感覚で、木製の扉に手を置いた。
途端、扉に変化が生じた。
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