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身に纏うは灰色の外套。私兵達を源泉とした赤い水溜まりの中にいるにも関わらず、帰り血が一切付着していない。暗くてよく見えないが、髪は紫紺だった。
なにより異質なのはその瞳。黒猫のような金色は、ひたすらに無機質だった。ナダルも私兵も、この男にとって路傍の石と大差ない。
男は裾から長さ二十センチほどのピックを取り出す。凶器の矛先が誰に向くか、いちいち説明するまでもない。
「き、貴様この私を誰だとこ、心得ている。評議会の一員だぞ! もし私に何かあればギルドが黙っていな──」
裏返った声が途切れる。一息に三つ。心臓、喉、脳の三箇所を貫かれ、老人は呆気なく絶命した。
「終わったようですね」
「……バランか」
振り返った先、廊下から漏れる光を背に一人の老人が杖をついて立っている。
汚れのひどいボロ布と、赤いターバンが特徴的だ。一見温厚そうに見えてその実、死者を甦らせるという目的のために大量の人間を使って人体実験を行っている外道である。本人は屍術士(ネクロマンサー)と名乗り、真理を探究する者と謳っているが。
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