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その部屋は広い。赤い絨毯と高級品のソファ、そして並べられた調度品の数々は、家主の権力を表しているかのよう。
「待っていたよ」
穏やかそうでありながら、隠しきれない傲慢と嘲りを含んだ響き。『影の民』の男とバランは声がした方に首を動かした。
まず目を惹くのは、床から天井にまで伸びた色とりどりのステンドグラス。月の光を取り込んだそれは、幻想的な輝きを放っている。
そのステンドグラスを背にして、痩せぎみの青年が一人、過度とすら思える装飾の椅子に腰かけていた。
緑の髪を肩まで下ろし、血のように赤い瞳は野心に燃えている。
二人のいる位置から青年のところまでは、五メートルは空いている。その間にはなにもなく、赤い絨毯が続くだけ。
その様子はまるで、謁見の間。他と隔てられた玉座に座る、王のようだった。
「例のものは?」
「こちらですよ。“大臣さん”」
バランがレポートを放った。風の魔法に乗った紙の束はふわふわと浮きながら、青年の手元に落ちる。彼はすぐに中身に目を通し始め──口元を薄く広げて笑った。
「しかし、どうしてそのレポートを? 魔物の生態系の変化など、何かに役立つのですか?」
「大いにね。時が来れば君達にも教えてやろう」
「──まあいいでしょう。研究があるので、私は帰らせてもらいます」
バランは再び転移魔法を発動させ、その姿を消す。暗い部屋に、『影の民』の男と大臣と呼ばれた青年だけが残された。
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