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「…は?」
唐突に何を言われるのかと思いきや、“様”を付けて名前を呼ばれた。
リントは目を点にして、首を傾げた。
― 今、リント様って…?
「お怪我はありませんか? 今、手枷を」
青年はリントの腕を縛っていた布を解(ホド)き、拘束から解放する。
「さぁ、早く此処(ココ)から出ましょう」
手を差し出してくるが、リントは身構えて、未だに警戒の眼差しを向ける。
初対面の相手に助けられ、しかも自分を知っている。
不審だらけの青年から差し伸べられた手を、そう易々と取れる筈がない。
「誰だ、テメェ…! いきなり現れて…! あんなの、俺だけで何とか出来たのに!!」
「この状況で、何が出来たと言うんですか? 腕も縛られて、何も出来なかったじゃないですか」
「煩(ウルサ)い!! サッサと俺の前から消えろ!!」
確かに、拘束されて何も出来なかった。
でも、誰かに助けられていなかったら、自分は男達の遊び相手にされていた。
何も出来なかった自分を否定したかったのだ。
「リント様…」
「黙れ!! 早くどっか行け!!」
枯れそうになる程の声で、リントは青年を拒絶する。
その時、青年が鞘に納めていた剣を再び抜く。
癪に触ってしまい、切られようとしているのか。
そんな不安が過った時、倒された男達が小さく呻く声が聞こえた。
「っ、クソガキ…! ふざけやがって…!」
男達は痛みに身体をふらつかせながらも、ゆっくりと起き上がる。
「やれやれ…。懲りない人達だ」
溜め息を吐くと、青年は突然、大きな手でリントの目を覆い、優しく抱き寄せる。
「…!?」
「目を、閉じていて下さい」
何処か優しく、何処か冷たい声が、リントの耳元で囁かれる。
ゾワリと脊髄を何かが駆け抜けた。
吐息が耳に掛かっただけではない。
何かを掻き立てられるような声に、身体を震わせられる。
そして、リントは何が起きているのか分からないまま、暗闇に谺する悲鳴に耳を傾けた。
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