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「覚えて…、いらっしゃらないのですか?」
哀愁を秘めたフェイリルの青い瞳が、リントに眼差しを向ける。
人との関わりを苦手とするリントは、顔を背け、彼と目を合わさないようにする。
「当たり前だ。俺は数年前から記憶が無い。気が付けば今の俺になっていた。もしも記憶を無くす前に会っていたってんなら、知らなくて当然だ」
フェイリルと目を合わさぬよう、顔を俯けたまま、リントは理由を話す。
今フェイリルと目を合わせてしまったら、何か起きそうな感じがするからだ。
これ以上、自分に関わらないでほしい。
その想いだけが、リントの心の中で何度も繰り返される。
「では、貴方が隣国へ来られた事も?」
「俺が、隣国に…?」
「今から約5年程前でしょうか。貴方が隣国へ来られ、その時にリント様とお会いしてるんです」
「5年前…。いや、分からない…。この国から出た事が無くて…」
「そうなんですか…。」
「…お前、何か知ってんのか?」
5年前に会った事以外、何かを知っていそうな口振りに、リントは彼と目を合わさないよう注意しつつ、疑いの目を向ける。
「知りたいですか?」
「…別に。他人の言う事は信憑性に欠ける。だったら最初から聞かない方が…。」
「では何故、僕が貴方を守ろうとするか。それは知りたくありませんか?」
「…何だよ?」
「僕をリント様の側に置いて頂けるなら、話さない事もありませんよ?」
「はぁ!? じゃあ、もういい!! サッサと飯作って出ていけ!!」
リントはズカズカとフェイリルを横切り、部屋から出て行こうとする。
「リント様!?」
「付いて来んな!! 只の散歩!!」
荒々しい足音ぎ次第に遠退き、終いには聞こえなくなる。
「やれやれ…。困りましたね…」
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