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街へ出ると、付近で市場が開かれており、多少ではあるが、人の賑わいがあった。
リントは市場でリンゴを1つ買い、 古びた遊具が置かれた公園へと足を運ぶ。
噴水の淵に座り、腰のホルダーに納めていたナイフを出し、リンゴの皮を綺麗に剥いていく。
丸かじりしようとした時、ふとリントの目にある光景が映る。
公園の片隅で、幼い兄弟がゴミ箱を漁り、何か食べ物が無いかを探している。
リントはリンゴをかじらず、その兄弟の元へと歩み寄る。
最初はリントの存在にビクリと身体を震わせたが、リントは兄弟と同じ目線にまでしゃがみ、ナイフでリンゴを半分に切る。
それを差し出すと、兄弟は嬉しそうな笑みを浮かべ、リンゴを受け取る。
「ありがとう、お兄ちゃん」
兄弟に御礼を言われると、はしゃいで走っていった。
リントは兄弟を見送ると、ナイフをホルダーに納め、公園を後にする。
道端を見ると、頭まで覆う布切れを被って俯く者や、座ったまま動かない者がいた。
これが、この国の現状。
救いも無ければ、希望も見えない。
そんな国で、自分は暮らして生きている。
他の国に行く事も考えた。
だが、この国以外の事は知らない。
もし知らぬままで、命に関わるような事になれば、堪ったものではない。
ならば、この国に留まった方が楽だ。
自分の中にも、希望など在りはしないのだから。
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