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「お帰りなさいませ、リント様」
無意識に歩いていると、いつの間にか自分の部屋に戻っていた。
扉を開けると、フェイリルが笑顔で出迎えた。
「食事の準備が整いましたよ。お掛けになって下さい」
「………」
「今日はスープと炒め物を作りました。嫌いな物はありませんでしたか?」
「…別に」
リントはぶっきら棒な返事をし、流し台に向かって果汁で濡れたナイフを洗う。
「何かされたのですか?」
「リンゴ切っただけだ」
「では、外で何かお召し上がりに?」
「そうしようと思ったけど、公園に居た子供にやった。何にも食べてなさそうだったから」
ナイフを洗い、タオルで拭いていると、啜り泣く声が聞こえた。
何事かと顔を上げると、フェイリルは涙を流して泣いていたのだ。
「な、何泣いてんだよ!?」
「いえ…、すみません…。やはり、貴方はお優しい方だと改めて感じました。あの頃と変わっていませんね」
「変な奴…」
フェイリルは涙を拭い、気を取り直して笑顔を見せる。
「さぁ、御食事にしましょう」
「………」
リントとフェイリルは椅子に腰を掛け、食事を始めた。
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