隠された素顔

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集落から飛び出したリントは、街に出て人が殺されたという現場を探す。 だが街は物騒な雰囲気に包まれている様子も無く、気力を失った人々が行き交うだけだった。 暴力や殺人が日常茶飯事のこの街では、幾ら人が死のうが、騒ぐほど珍しい事ではなかった。 人に尋ねても、答えなど返ってこない。 集落へ行く時に通る道を探してみるが、何も無い。 道でなければ、何処かの路地なのではないかと考え、1つ1つの路地を建物の死角から覗く。 何が起きるのか分からない。 リントは万が一に備え、腰のホルダーのナイフを握る。 すると、路地から見える1本向こうの道で、数人の人が悲鳴を上げながら逃げて行くのが見えた。 その先に、人殺しが居る。 何とかしなければ、子供達の元に及ぶかもしれない。 リントは少しずつ歩を進め、道へ向かう。 近付く度、心拍数が上がっていく。 息を殺し、建物の影から様子を窺う。 逃げてくる人の姿は無く、静寂だけが流れる。 建物から飛び出し、先の曲がり角へと向かう。 曲がり角を差し掛かった直後、リントは足を止めた。 この先の暗闇から、赤い血が此方に向かって流れてくるのが見えた。 鼓動が更に高鳴る。 冷や汗が頬を伝う。 息を殺し、血を辿って暗闇の先へ向かう。 血生臭い匂いが、辺りを包む。 鼻を覆いたくなる悪臭に、表情が歪む。 その時、誰かが息を切らす声が聞こえた。 その声に足を止め、ナイフを向ける。 直後、それを合図にしたかのように日の光が差し込んできた。 煌めく刃に伝う血。 次第に日の光が、正体を暴いていく。 「お前は…!」 完全に姿が見えた時、リントは言葉を失う。 そこに居たのは、足元に横たわる屍の返り血を浴びたフェイリルだった。
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