隠された素顔

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また、人の命を絶った。 穢れを許さないと言わんばかりの白い装甲は、赤い飛沫に染め上げられている。 先程まで一緒に居た剣士が、自分を襲った訳でもない無関係の者を手にかけてしまった。 何故、彼がこのような愚かな行いをしたのか、混乱だけが頭の中を駆け巡る。 「お前…、何を…!?」 「ああ…、リント様…。そこにいらっしゃったのですか…」 フェイリルは笑みを浮かべるが、何かが可笑しい。 口角だけが少し上がるだけで、目は笑っていない。 そんな彼の笑みを見て、ゾクリと寒気が走る。 何から聞けばいい? 何故殺したのか。 何があったのか。 聞きたい事は有る筈なのに、言葉が喉の辺りで閊(ツカ)えて出てこない。 「一体どちらへ…? 探しても探しても、貴方の姿が見えなくて…」 フェイリルが此方を向き、剣を鞘に納める。 カチンと剣と鞘がぶつかる音に、リントは我に返る。 「お前…、何…して…!」 「貴方が突然居なくなってしまうから…。心配で心配で堪らなくて…。そしたら胸が苦しくなって…」 ゆっくりとリントに近付くフェイリル。 動けない。 本能が逃げろと言っているのに、身体が強張って動かせない。 何に怯え、何に畏怖している? どうして、こんなに身体が震えている? 「苦しいのがどうにもならなくて…、何とかしたくて…。そしたら目の前に人が居て…」 「そんな理由で…、殺したのか…!?」 「だって、リント様が僕の側から居なくなるからですよ? 漸く手にした宝物が突然無くなってしまった気分です。貴方が居ないと、どうかなってしまいそうです」 自分が1人になりたいが為に彼から逃れ、気楽になれたと思っていた。 それが彼の遣る瀬無い気持ちを暴走させ、結果、狂わせる事となり、無関係の人を巻き込むという最悪の事態へと発展した。 彼は憂さ晴らしの為に、人を巻き込んだのだ。 「どうなさいましたか? リント様」 リントはフェイリルにナイフを向け、これ以上、近付くなと警戒する。 だが、それでもフェイリルはリントに近付いてくる。
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