隠された素顔

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「お前…、頭可笑しいんじゃねぇのか!? 憂さ晴らしで人を殺すなんて…!」 フェイリルは口を閉ざし、徐々にリントを壁まで追い詰める。 冷たい瞳が、狂気に満ちた瞳が見つめてくる。 蛇に睨まれた蛙のように、身体が思うように動かない。 その時、踵が石に躓き、後方へと転倒する。 倒れた所は血が水溜まりのようになっており、転んだリントを赤く染める。 「っ…、うっ…!」 身体を起こすと、全身が赤い滑りに覆われていた。 小刻みに震える身体。 今、肌に感じているのは、人の中に流れていた筈の物。 それが今、自分の身体を染め上げている。 赤く染まったリントを、フェイリルはジッと見つめている。 彼の視線が、突き刺さる程に痛かった。 「み、見るな…! 来るな!!」 声を張り上げた刹那、肩を掴まれ、赤い水溜まりへと仰向けに押し倒される。 パシャンと水が爆ぜるような音と共に、水溜まりが更に広がる。 「なっ…!?」 何をしたのかと問おうとした時、身体が凍り付いたように動けなくなる。 狂喜に満ちたフェイリルの顔が、自分を見下ろしている。 そして、彼が漸く口を開く。 「血に塗(マミ)れた姿も素敵です、リント様…」 フェイリルは血に染まった手でリントの頬を撫でる。 頬は彼がなぞった軌跡を描くように血が付着する。 正気の沙汰じゃない。 血に染まった自分を見て興奮するなど、尋常ではない。 するとフェイリルはリントが持っていたナイフを取り上げ、シャツの胸元から一気に下へと切り裂いた。 その直後、口を何かに塞がれる感覚に襲われる。 「っ、ん…!」 息が出来ない。 リントは目を見張った。 フェイリルの口が、自分の口を塞いでいたのだ。 信じられない彼の行動に、リントは愕然とする。 フェイリルが離れると、笑みを浮かべて口を開き、こう言う。 「もっと見せて下さい。貴方が血に濡れる姿を…」
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