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ヤバい。
これは紛れも無く危険だ。
何をされるのか分からない。
でも、今逃げなければ、命が危ない気がした。
リントは逃げようと身体を捩るが、フェイリルの力が強く、払い除ける事すら出来ない。
ナイフも取り上げられ、成す術もない。
どうする?
どうすれば、この状況を打開できる?
今までの相手はフェイリルほど力は無く、払い除ける事も出来たし、気絶させる事も出来た。
だが、曾(カツ)て無いこの状況に、どう抗えばいいのか。
その間にも、フェイリルはリントの身体に血を塗りたくっていく。
そして何に興奮しているのか、息を切らす声が彼の口から漏れる。
「リント様…、綺麗です…」
耳元で囁かれ、温かい吐息が吹きかかり、ゾワリとした感覚が脊髄を駆け抜けていく。
「っ…!」
「何故声を殺されるのですか? 貴方の声も、素敵だというのに…」
「ふざ…けんな…!」
声を殺しても、抗えない感覚に耐えきれず、思わず声が漏れてしまう。
理性の壁が、崩されていく。
「やめ…ろ…!」
「………」
「やめろ、フェイリル!!」
辛うじて声を張り上げた途端、フェイリルがピタリと止まった。
リントは脱力し、息を切らす。
するとフェイリルは身体をゆっくり起こし、呆然とする。
「リント…様…」
我に返ったフェイリルは、何故か涙を流し、雫がリントの頬に落ちる。
「…何泣いてんだよ…」
「今…、僕の名前を…。呼んで…」
さっきの狂喜に満ちた表情が一変、柔和な表情へと戻っていく。
リントは身体を起こし、泣きじゃくるフェイリルを見つめる。
「申し訳ありません、リント様…。このような無礼を…」
「いや、怪我してないからいいけど…」
「今 運びます。掴まって下さい」
フェイリルはリントを軽々とお姫様抱っこで抱き上げると、リントは顔を真っ赤にして目を見開く。
「な、おま…! 下ろせ!! 自分で歩けるから!!」
リントが反抗するも、フェイリルは聞き入れず、そのまま自宅へと向かった。
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