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5年前。
人々が行き交う街の路地に、段ボールにくるまって眠る幼いフェイリルが居た。
手には父から譲り受けた剣が鞘に納まったまま握られており、手放してしまわないように布で巻き付けてあった。
すると、道の方から何やら騒ぎ声が聞こえ、フェイリルは目を覚ます。
何事かと身体を起こした刹那だった。
「うおわっ!!」
聞き慣れない声が聞こえ、フェイリルは反射的に後ろを振り向く。
覗き込むと、打ち付けた頭を擦る、白い服を着た少年が居た。
「ってて…! なんだ、誰か居たのか」
「ご、ごめん! 騒がしかったから、何かと思っ…!」
突然、少年がフェイリルの口を塞ぎ、山積みになった段ボールの影に潜む。
「むっ…、むぐぐー!!」
「頼むから静かにしてくれ! アイツらに見付かったら厄介なんだよ!」
フェイリルはコッソリと道を覗くと、鎧を纏った兵士達が誰かを探している様子だった。
「追われてるの…?」
「いや、追われてるっつーか…。とにかく、見付かったら大変なんだって。頼むから静かにしててくれよ」
すると、兵士が路地に入ってきて、此方に向かって来るのが見えた。
「あ、誰かが来る…!」
「マジ…!?」
「これ被って! こっち!」
フェイリルは少年に煤けた丈の長い布切れを被せ、手を引いて路地の奥へと走り出した。
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