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路地の更に奥に行くと、日の光も入らないような所に着いた。
「お前、足速いんだな! スゲェよ!」
「走るのは得意だから。それより、何で君は逃げ回ってるの?」
「…せっかく違う国に来たんだから、1人でのんびり観光したくって…。俺、隣の国から来たんだ」
「そうだったんだ。でも、お父さんやお母さん、心配しちゃうよ?」
「いいんだよ、あんな親。自分の仕事でいっぱいいっぱいで、俺は只の御飾り状態で連れてこられたようなもんだしな」
少年は服のポケットから飴玉を2つ出し、1つをフェイリルに差し出す。
「食えよ」
「あ、ありがとう! あの、僕はフェイリルって言うんだ。君は?」
「リント。リントってんだ」
「リント…くんだね。ねぇ、この国に、いつまで滞在するの?」
「3日ぐらいかな。でも母さんの用事で来たってぐらいだから、正直退屈なんだよな」
「じゃあ、良かったら明日も此処に来てよ! いい退屈しのぎになる所があるんだ」
「お、いいね! じゃあ明日、此処で待ち合わせな!」
リントは周りの様子を窺いながら路地を飛び出し、走って行った。
「それが、リント様と僕の出会いだったんです」
フェイリルから語られる話に、まだ半信半疑ではあるが、リントは静かに耳を傾ける。
「観光に来られた際、貴方は家の方の目を盗み、逃げていた所を僕と出会いました。あの時の貴方は、今と殆ど変わらない口調でしたね」
― 1人になりたい所とかも変わってなかったのかよ、俺…。
しかし、リントを見つめるフェイリルの目は真摯で真っ直ぐだった。
そんなフェイリルを、何処か信じざるを得ない気がした。
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