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「こっち」
フェイリルはリントの手を握り、近くの路地の更に奥へと向かう。
「ねぇ、一体何があったの? お母さんと喧嘩でもしたの?」
「喧嘩なんて物じゃない…。アイツのする事は異常だ。俺はアイツに縛り付けられてるんだ」
「縛り付けてるって…! どういう事!?」
「アイツは俺を王にする為なら、手段を選ばない奴なんだ。俺はそんなのに興味なんて無いのに…!」
「王…? じゃあ、君は王子なの!?」
「…今まで黙ってて、ごめん。俺、王の息子だからって距離取られたくなくて…」
リントは顔を俯け、口を瞑る。
裾を握る手は震え、やがて涙が伝う。
「リントくん…」
「もう、城には戻りたくない…! 帰れば王の座を狙う連中の冷たい目に囲まれて、憎悪の渦に巻き込まれるだけ…! あんな所はもう嫌だ!!」
するとフェイリルは、震えるリントの手を強く握り締めた。
「大丈夫。リントくんは、僕が守る」
「フェイリル…」
「リントくんは、僕の大切な友達だよ。独りだった僕に、沢山話し掛けてくれた。沢山笑ってくれた。それだけで、心がどれだけ救われたか。だから、今度は僕がリントくんを救う番だ」
「…ありがとう、フェイリル」
手を繋いで走り出し、路地から飛び出した時だった。
「そこまでです、リント」
大通りには一緒に馬車に乗っていた女性と、鎧の兵士達が待ち構えていた。
リントが後退りすると、フェイリルが庇うように前に出る。
「フェイリル…!」
「大丈夫。下がってて」
「そこの貴方。後ろにいる息子を引き渡しなさい。そうしたら褒美を差し上げましょう」
フェイリルは女性の交渉に応じず、左手と剣を結ぶ布を解き、鞘から剣を抜く。
「褒美なんて興味ないね。貴女は自分の子を物としてしか見ていない。そんな人に渡せるワケがない」
「交渉決裂…ですね。いいでしょう。愚か者に相応しい制裁を」
女性の合図で、兵士達が2人に向かって迫ってくる。
「走るよ!」
フェイリルはリントの手を引き、走り出した。
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