295人が本棚に入れています
本棚に追加
/303ページ
「待ちなさい!! 必ず捕らえるのです!!」
女性はリントを何としてでも捕まえるつもりだ。
だが、当の本人はそれを拒んでいる。
城に帰る事に怯えるリント。
フェイリルは、この国を出た経験は無いが、風の噂では相続権争いが激しく、常に内戦寸前の国が隣にあるという事は知っていた。
その渦中に巻き込まれそうになっている人物が、今手を繋いで一緒に逃げている。
彼は純粋に1人の人として生きたいだけで、だから帰る事を嫌がっている。
王子という事を除けば、自分と同年代の少年だ。
一緒に遊んで、一緒に笑い合った。
独り身で寂しい思いをしていたフェイリルにとって、それは心から救われていたのだ。
「フェイリル、何処に逃げるんだ!?」
「とりあえず、人が多い所に行こう! 兵士達を撒けるかもしれない!」
フェイリルは角を曲がり、先に見える大通りを目指す。
その先には、人々が行き交う姿が見える。
逃げれるチャンスが目前に迫ってきた。
その時、リントが突如として足を止める。
「リントくん…!?」
「駄目だ…。これ以上、お前を巻き込むワケにはいかない…! 俺、城に戻って我慢するから!」
「でも、城には戻りたく無いんでしょ?」
「そうだけど…。でも、俺の為に他人を巻き込むなんて事したくないんだ!」
「…リントくん。本当の気持ちを教えて? リントくんはどうしたいの?」
「………。」
「やりたい事があるなら、今がチャンスだと思うんだ。自分のやりたい事は自分にしか出来ない。死んだ父さんが言ってた。人生は、自分で決めるものだって」
フェイリルの言葉に、リントは口をキュッと閉じ、服の裾を握る。
「…俺、色んな世界を見てみたい。世界が何れだけ広いのか、どんなのが有るのかを知りたい」
「じゃあ、僕と一緒に見に行こう? 辛い事もあるかもしれないけど、リントくんとなら、やっていける気がするよ」
「うん…!」
目に涙を溜め、今にも泣き出しそうな顔を浮かべた時だった。
ドンっ!!!
轟音のような銃声が、辺りに響き渡った。
最初のコメントを投稿しよう!