君との約束

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「ぁ…!」 その場に走ったのは絶望だった。 全身から血の気が一気に引き、遂には身体から力が抜けていく。 左肩を撃ち抜かれたフェイリルは、そのまま仰向けになって倒れた。 「フェイリル!?」 悲鳴のような声を上げ、リントはフェイリルの元に駆け寄る。 「フェイリル!! しっかりしろ、フェイリル!!」 「そこまでです、リント」 冷たい水を差すように、女性が姿を現した。 大通りには銃口を向けた兵士達が数人、女性の脇を固めていた。 「母…さん…!!」 「さぁ、リント。こちらに来なさい。直ぐに帰りますよ」 「………」 「でなければ…」 女性が顎で合図すると、1人の兵士がリント達に近付き、フェイリルの頭に銃口を突き付けた。 「やめろ!! フェイリルだけは…!!」 「リント。そのドブねずみを助けたくば、私と一緒に城に帰るのです」 女性から突き付けられた条件。 城に帰る事を受け入れ、フェイリルを救うか。 城に帰る事を拒み、フェイリルを犠牲にするか。 残酷とも言える板挟みに、リントは葛藤する。 そして。 「…ごめんな、フェイリル…!」 リントはフラリと立ち上がり、女性の元へと歩いて行く。 「リント…くん…!」 「賢明な判断です。彼を手当てしてあげなさい」 フェイリルの元に、2人の兵士が駆け寄り、手早く処置を施す。 「リントくん!!」 「黙れ!! その声で“私”の名を呼ぶな!!」 背を向けたまま、リントは怒鳴る。 身体は震え、声を押し殺している声が聞こえた。 「これ以上、私に関わるな…。それでもと言うなら、命は無いと思え…!」 振り向いたリントの目には涙が溢れ、頬を伝っていた。 本当は、こんな事は言いたく無かった。 だが、これ以上関わったら、フェイリルの命が危ない。 唯一の友達を失いたくない。 その思いが今、こうして表されていた。 リントは涙を拭い、馬車に乗り込む。 扉が閉まると、ピシッと鞭が鳴り、白馬が走り出した。 「リントくん…」 手当てをされたフェイリルは、呆然としたまま、その場に取り残された。
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