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「これが、5年前の出来事です」
フェイリルから語られた事は、信じられない事ばかりだった。
自分が王子であった事。
フェイリルを救う為に、自らが犠牲になった事。
信じがたい事ばかりで、リントは言葉を失った。
「あれから僕は、国の騎士団に入り、剣術や処世術を教わり、半年前に退団して、貴方の元に来ました。あの頃の約束を果たす為に」
「俺を…、守る為に…?」
「僕は貴方と出会った事で心が救われ、貴方が犠牲になった事で身が救われた。今度は、僕がリント様を救う番です」
「いや、ちょっと待て。記憶が無いからアレだけど、マジでそんな事があったのか…?」
「はい。れっきとした事実です。撃たれた傷も、まだ残っています」
フェイリルが紺色のインナーを脱ぐと、左肩には痛々しい傷痕が刻まれていた。
この傷が、自分が他人を巻き込んでしまった罪の証。
記憶が無いとは言え、此処にれっきとした証拠が刻まれている。
今の自分は知らない事実が、リントを混乱させていく。
「リント様…」
「…俺に…、出来る事は無いか…?」
自分が犯した過ちが、他人を巻き込んでしまった。
記憶が無くても、それは何処か責任を感じさせた。
ならば、その罪を償わなければならない。
「リント様。僕は貴方を守りに来たんです。なので、貴方が僕にする事は…」
「大有りだ! 俺のせいで、お前は怪我をした…! 俺のせいで、お前の人生を歪めちまった…! 許せなんて言わない! でも、何かしてやらないと気が済まないんだ!!」
リントの言動に、フェイリルは目を丸くして驚いていた。
曾ては王子だった少年が、自分の為に何かをしてくれるなど、この上ない幸せだった。
「…ならば、リント様」
フェイリルは跪き、女性の手を取るようにリントの手を取る。
「貴方は僕の側に居て、心の支えになって下さい。貴方が居るだけで、僕は幸せです」
「お前の…、側に居ればいいのか…?」
「はい」
「…分かった。全力を尽くす」
「ありがとうございます、リント様」
フェイリルは優しく微笑むと、手の甲に口付けをした。
「…なぁ、お前そういうの何処で習ったワケ?」
「それは秘密です」
「あっそ…」
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