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街では市場が始まり、多少ではあるが人の姿があった。
そんな中、煤けた布切れを被って、トボトボと歩く人物が居た。
布切れの隙間からは、如何にも貴族が着そうな服が覗いているが、所々破れていた。
繁栄している街で歩いてたら好奇の目が向けられるであろうが、この街では珍しくない為、振り向く者すら居なかった。
布切れを纏った人物は果物が売られている屋台へ足を運び、リンゴを1つ購入した。
それを懐へしまうと、またフラフラと彷徨い始めた。
「…様。リント様」
フェイリルの声に起こされ、リントは目を開く。
「食事の準備が整いましたが、食べれそうですか?」
「…少しなら…」
フェイリルに支えられながら身体を起こし、時計に目を向けると、朝の9時を差していた。
「随分寝ちまったな…」
ゆっくり立ち上がってキッチンへ向かうと、食卓にはパンとスープ、サラダが並べられていた。
美味しそうな匂いを漂わせるも、お腹いっぱいに食べれそうにも無い気分だった。
「そんなに食べれないかもしれない…」
「無理して全部食べる事はありませんよ。逆に辛くなってしまいますから」
「悪ぃ…」
リントは椅子に座り、手前にあるパンを手にする。
一口齧(カジ)るも、中々喉を通らず、手を止めてしまった。
「本当に大丈夫ですか?」
「うん…。何だろ…。気分があまり良くなくて…」
「もう少し休まれますか?」
「いい。その…、ちょっと用事が…」
「用事、ですか?」
「そんなに時間はかからない。それと、そのパン。少し持って行っていいか?」
「はぁ…。構いませんけど…?」
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