過去を知る者

5/10
前へ
/303ページ
次へ
賑やかな街の外れまで行くと、細い路地に入る。 その先に進むと、壁に囲まれた踊り場に出る。 リントは積み上げられた木箱を使って、壁の上まで登り上がる。 下にいるフェイリルから、袋に入ったパンを受け取ると、壁の向こうへと飛び降りる。 着地すると、それを合図にしたかのように段ボールハウスから子供達が出てきた。 「あ! リントだー!」 「今日は何を持って来てくれたのー?」 「今日はパンを持って来た。仲良く分けて食べろよ」 リントは手前にいた子供にパンを渡すと、子供達は嬉しそうにパンを分け始める。 すると、近くにいた女の子がある一点の方向をジッと見ている。 「どうした?」 「あの人、だぁれ?」 女の子が指差す方を見るなり、リントはギョッとする。 いつの間にかフェイリルが壁を越えて立っていたのだ。 「お、お前! 待ってろって言っただろ!?」 「リント様。僕の側に居て、心の支えになって下さると言ったでしょう? 自分のおっしゃった事ではないですか」 「これとそれとは話が違う!! 直ぐに終わるから待ってろって!!」 「はい。此処で待ってます」 満面の笑みを見せると、リントは呆れたように大きな溜め息を吐いた。 すると数人の子供がフェイリルの元に興味本位で近付く。 「ねぇねぇ、お兄ちゃんはリントのお友達なの?」 「…そうですね。そのようなものです」 子供の問いに答えるが、ふとリントを見ると、如何にも怒ってるような顔をしていた。 そんなリントの顔を見て、フェイリルはクスクスと笑う。 「な、何笑ってんだよ!?」 「いえ、別に」
/303ページ

最初のコメントを投稿しよう!

297人が本棚に入れています
本棚に追加