過去を知る者

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人があまり来ない路地の奥まで来たリント達。 日があまり入らない上、澱んだ空気に包まれ、嫌な雰囲気しか漂っていなかった。 「この国の王は多数の妻を持ち、その間に生まれた子を王の継承者候補として扱っていた。故に、それぞれの妻は我が子を王にしようと躍起になり、醜い権力争いが日常茶飯事だった」 「その継承者候補に、俺も含まれていたのか」 「ああ…。お前の母親…。リゼルは特に王への執着が激しくてな。お前を王にする為には手段を選ばない、冷酷な女だった。果てには、他の継承者候補を手に掛けていたりしたよ」 以前、フェイリルからも少し聞いたが、人の命を踏みにじる事を厭(イト)わないという所までは知らなかった。 そんな女性が自分の母親なんて、信じられなかった。 「じゃあ…、何故俺は死んだ事に…?」 「目に余る行動をしていたリゼルを見限った王は、彼女を処刑した。そして、彼女から生まれた子でもあるお前からも継承者候補の権利を剥奪し、国外追放されようとしていた。だが、リゼルは俺の妻をも手に掛けていた。だからその子供であるお前を俺は殺そうとした。胸にナイフを突き刺そうとしてな」 「胸にナイフ…」 何かの偶然であろうか。 この男の服装。 自分を殺そうとした事。 そして、胸に刃を突き立てようとしていた事。 夢で見た事が、恐ろしいぐらい一致している。 あの夢は、過去に本当にあった事だったのか。 それとも只の偶然か。 無意識に鼓動が高鳴り、それに伴って視界がグルグルと回ってくる。 「リント様…!」 身体がふらついたリントを、フェイリルは咄嗟に支える。 「だが、この国はもう終わった。王も継承者候補も、その妻も全て死んだ。リント。お前を除いてな。」 男は布切れを被り、スッと立ち上がる。 踵を返し、去り際にリントに一言こう言い放つ。 「記憶が無い方が、幸せかもな」 そう言うと、男はその場を後にする。 「リント様、大丈夫ですか?」 「………」 「…今日は帰りましょう」 フェイリルはリントを抱え上げ、自宅へと向かった。
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