過去を知る者

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部屋に戻ると、フェイリルはリントをベッドに寝かせ、装甲を外す。 顔色が悪く、息遣いが荒い。 フェイリルはキッチンでタオルを濡らし、額に滲んだ汗を拭き取ってやる。 すると、リントがうっすらと目を開く。 「リント様…」 「あの男は…?」 「“記憶が無い方が幸せだ”と言い、去って行きました」 「そう…か…」 「…少し熱がありますね。今、氷嚢(ヒョウノウ)を…」 氷を取りに立ち上がろうとすると、リントがフェイリルの腕を掴んだ。 突然の事に、フェイリルは思わず目を丸くする。 「リント様…!」 「今までは、どんな事があっても1人で乗り越えてきた…。でも、何だか今回だけは、誰かが側に居てほしいって思えて…」 どうしようもない混乱がリントを苛み、今まで平気だった筈の孤独が、何故か今は怖く感じる。 所詮、自分も心が弱い人間なのだ。 “1人で何とかする”という虚勢を張り、弱い自分を隠していた。 そう実感した時、急に他者という存在が恋しくなった。 「リント様…」 「もしお前が居なかったら、俺はあの場で壊れてたかもしれない。重い事実に押し潰されて…。でも、もしあの話が本当なら、俺は…!」 「リント様、少しお休みに…」 「この国を滅ぼした奴等の身内だったんだ…! 俺も、奴等と同じ罪人なんだ!」 感極まり、目尻に涙が滲む。 次第に手足も無意識に動かし、今にも暴れそうで、泣きじゃくる子供のように声を上げて泣き出しそうになるリント。 もしかしたら、混乱のあまり精神にも支障を来しているのかもしれない。 フェイリルは頭を抱えるリントの腕を掴み、抱き寄せた。 「…!」 「リント様…。貴方は何も悪くありません。醜い争いに巻き込まれただけで、貴方には何の罪もありません」 「でも…、俺はお前も巻き込んじまったんだ…! 俺のせいで、お前は…!」 「…もう、何も言わないで下さい」 フェイリルは泣きじゃくるリントの頬に触れ、そっと口付けをする。 突然の事にリントは驚きを隠せず、身体を強張らせた。 「何があっても、僕は貴方の味方です。どんな時も、リント様を守ってみせます」 フェイリルの温かい言葉に、リントは感極まり、更に涙が溢れて泣き出した。
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