眩しすぎる光

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『生きなさい、リント。貴方だけでも…!』 曖昧な記憶に残る女性の声。 何かから逃げているのか、声の加減からして慌てているように感じ取れる。 過去の記憶など、覚えていない。 今の自分として成り立ったのは数年前で、それ以前の記憶が無い。 “リント”という名を覚えているだけで、それ以外は覚えていない。 いや、知らないのだ。 自分が本当は何者なのかも。 だが、そんな事はリントにはどうでも良かった。 生き抜くだけでも必死なのに、自分の事を知ろうとする暇などない。 なのに、何かを思い出させるかのように、夢の中で誰かが呼び掛ける。 誰なんだ? この声の主は…。 目を覚ます頃には、日は沈みかけていた。 昼食も摂らずに眠り込んでしまっていたらしく、腹の虫が空腹を報せる。 キッチンの冷蔵庫を開けるも、まともに食べられるような物はなかった。 仕方ないと言わんばかりの溜め息を吐くと、ベストを羽織り、薄暗くなりつつある街へと赴いた。
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