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「おう、今日のつかさちゃんも饅頭も美しいな」
「減蔵さんの助平」
この辺りでは評判の、饅頭屋の看板娘つかさ。
錺り職人減蔵の、遠慮ない胸元への視線を一言で断ち切った。
「饅頭5つくれ」
「減蔵さんに食べさせる饅頭はありません」
「おや、つかさちゃん、ヒゲが生えてるぞ」
「え~っ!ウソどうしよう」
心底慌てた様子で口元を撫で回すつかさを見て、減蔵はニヤニヤと笑った。
なかなか愉しい。
すっかりむくれてしまったつかさに、減蔵は小袋を手渡した。
「何ですか、これ」
「矢立てだな。先生の忘れ物だよ。どうせここには毎日寄るだろうから、渡してやってくれないか?」
「先生、大丈夫かな。この間は刀なくしたって言ってたし」
「や、そりゃないだろ、いくら貧乏浪人でも……先生ならやりかねんか」
先生と呼ばれる人物は、どうやらどうしようもないうっかり者らしい。
饅頭5つが、荒っぽく減蔵に差し出された。
「先生にはちゃんと届けておきますね、その代わり」
饅頭の代金は、しっかり二割増しであった。
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