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『書き初め大会会場』
街の広場の片隅に、そんな旗がはためいている。
旗の横に、黒の長袖シャツにサングラスの中年男がだらしなく座っているが、季節は夏だ。
軽く何もかもが間違っている。
一人の青年が足を止めた。
不敵な笑みを浮かべているが、まだ若い。
日本人離れした、整った容姿は人目を惹く。
「魔王って書いてくれ。あと破天荒と……」
ちょっと皮肉げにつり上がった青年の口元を見て、男は笑った。
本当に悪い男であれば、まず選択しない言葉ばかりだろう。
男は無造作に筆をとった。
「俺があんたぐらいの頃は、30まで自分が生きるなんて思ってもいなかったよ。そんな資格もないろくでもない男でなあ。ところがどうだろう、容赦なく40過ぎてるじゃないか」
男はどうでも良い話をしながら、文字を書いた紙を青年に投げて寄越した。
「この辺りにある字で、気に入ったものがあれば持って行くといい。用がなくてもいつでも来るといい。俺はあんたの望む字を書こう」
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