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   家のソファでうとうとしていると、夕日が差し込んできてふと目がさめた。  仰向けになって寝ていた私の胸の上には読みかけの彼の本。  最新の本でもなく、私と出会う前の本。  私と出逢ってからの小説もいくつか発表しているようだがどうしても読むことどころか、書店で手にとることすらもできない。  それでも知ってる。嫌でも書評は耳に入ってくる。  彼はもうハッピーエンドしか書かないのではないか、と。  酸素を求めるのが当たり前のように、水を飲むのが当たり前のように、彼は私の日々にすぐに溶け込んだ。  あの感覚を恋と呼ばずになんと呼ぶのだろう。  恋というそんな感情に、一体、どう抗えたというのだろう。  そして、もう燻って消えてしまったと思っていた気持ちは、どうして、意図も簡単にまた燃えはじめてしまうのだろか。  どれほど願ってもいくら泣いてもあの日には戻れない。  二十歳だった私には戻れない。  
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