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   初めてのお客様に何を話したらいいのかわからなくて困った矢先にアルバイトの的場さんだった。  関西弁を口にする的場さんはマスター以外にいる唯一の男性従業員で、色白で身長の高い線の細い人だなあと思っていた。きっとその栗色の髪の毛は染めているのではなく、色素が薄いからなんだろう。 「ちょっとまーやん、こんな可愛い子が入ったんだったら連絡くらいしてよ」 「いやいや、イベントしまっせーとかのメールはいれてたし、ブログにも新しい女の子はいりましたってかいたのに、しばらくきてへん高田さんが悪いんでしょうが」 「仕方無いだろ、仕事でいっぱいっぱいだったんだから」  その会話から、きっとこの高田さんというお客様は私がここでバイトを始める前からいらっしゃるお客様でここ最近は忙しくて来れず、という事がわかった。 「のりちゃん、この高田さんはな、詐欺師やねんで」 「えっ、詐欺師」  洗っていたグラスを落としそうになったがなんとか持ちこたえ、驚いて高田様の顔を見ると彼はくすくすと笑っていた。 「詐欺師なわけないよ、まあそれに近い職業かもしれないけどね」 「そ、そうなんですか」 「あー、ほら。まーやんのせいでのりちゃんが僕のこと嫌っちゃったよ。どうしてくれんの」 「なんすか高田さん、もしかして狙ってたんとちゃいますのん。駄目っすよー、のりちゃんにはかっこいい彼氏がいてるんで。な、のりちゃん」 「かっこいいかどうか、は。とりあえず、はい、彼氏は一応…」  あまり私は人前で恋人のことを聞かれるのも言うのも苦手で、うつむいてただひたすらにグラスを洗う作業に集中した。髪の毛も今まで一度も染めたことのない私だから、よく地味だといわれ、それなのに私の彼氏は何故私を選んだのかわからないくらいに目立つ人で今でも何故付き合っているのか、何故そこまで愛してくれるのかがわからない。 「じゃあその彼氏と別れたら僕のとこにおいでよ、のりちゃん」  大人は余裕があってとても羨ましい。  私は高田様のその言葉に「えぇ、気がむいたら」と目もあわさずに返した。    高田様はどうやら詐欺師ではなく、小説家だそうだ。私も小説は好きなのでペンネームをお聞きしようかとしたところにマスターが帰ってきて、お客さんもぽつぽつと入り始めた。
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