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「今日は学校に献血車が来るそうだ。献血希望の生徒は挙手しろ~」
先生の掛け声でちらほらと挙がる手の中に俺はいない。いや、挙げれないと言ったほうがこの場合は正しい。
その理由は後々言おう。
「おし、次の連絡だ。竜乃(たつの)、後で職員室に来るようにとのことだ。古川先生がお前に見てもらいたい物があるんだと」
「わかりました。これが終わったら伺ってみます」
「竜乃」と呼ばれた俺の本名は「竜乃 攻(こう)」。
代々竜を祀ってきた巫女の一族で、俺も成人したら神社を継ぐことになってる。
神社と言ってもこぢんまりとした所で、竜に感謝を捧げる奉竜の踊りを元旦に行って無病息災を願ったりするぐらいだ。
でも地域との繋がりはとても大事にしてて、そのおかげか参拝者がこないということはない。…ま、神社がここしかないってことも要因の1つだけどな?
で、なんで献血をしてはならないかというと……ウチの敷きたりで【竜乃の血を誰かに与えることを禁ず】なんてものがあるから、献血できないワケ。
なんとも難儀な敷きたりだこと。
「連絡事項はこれぐらいだ。一時限目の授業がんばれよ~」
先生はそう言うと颯爽と教室から退場していった。
「さて、古川先生の所に行くか」
職員室へと着いた俺は、ドアをノックして入っていった。すると、ちょうど古川先生と鉢合わせた。
「あ、古川先生。俺に見せたい物って何ですか?」
古川 伊織(いおり)先生。母性が滲み出た笑顔の絶えない先生は、膝下まであるモコモコの黄色いセーターっぽいものを着ていた。
「あら攻くん、ちょうどよい所にきましたね。あなたに見てほしい物はこれです」
そう言って手渡してきた一枚の写真。そこに写っていたのは昔語りに出てきそうな、鹿のような角と長い髭、蛇のようにしなやかな体が特徴の東洋の竜。
それが2匹、向かい合うようにして彫られた石版2匹の竜の周りに刻まれた文字を見た瞬間、古川先生へと視線を戻した。
「先生……この石版をどこで?」
「それはエジプトのピラミッド内部で発見された物です。調査チームが偶然見つけたものでして、王の部屋に隠されていました」
「………なんで、これがそんな所に」
……ありえなかった。この石版に刻まれた文字は竜乃神社に古くから伝わる、門外不出の文字だからだ。
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