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竜乃神社の跡継ぎはまずこの文字を習う。しかも年端もいかない小さい頃からだ。
この文字を習得しながら境内の掃除をしていた記憶が懐かしい……じゃなくて、なんでこの文字がエジプトの……しかも王の部屋に隠されてあったのかが問題だ。
「その顔……この文字が何なのか判るんですね?」
「ええ、判ります」
そう言うと古川先生の顔が明るくなったが、次の瞬間には僅かに曇った。
「…ですが、この石版に書かれていることを話す気はありませんので」
「……なぜです…?」
「この石版に書かれている文字は、竜乃神社の神聖な文字です。おいそれと人様にバラすようなことはしませんし、なにより……」
少し溜めてから、俺は息混じりに次の言葉を紡いだ。
「その石版は意味の無い単語の綴りでしかありませんから、解読したとしても意味なんてありません」
そんな呟くような言葉を聞いた古川先生は、あからさまにしょんぼりとした恰好なった。顔にもそれが現れてて、とても落ち込んでいる。
「そ、そうですか……ありがとうございました。…また、何か見つけ次第連絡します……」
周りにどんよりとしたオーラは撒き散らしつつ自分の席に戻っていく古川先生を見やりながら、俺は職員室を出て行った。
(さーってと、授業授業)
これから始まる授業に集中するために、あの石版のことは一時、頭の隅に追いやるのだった。
時は流れて放課後───
今俺は家に向かって帰る途中なのだが………何時もとはちょっと違う帰宅風景。
それは何故か? それはな………俺のコートの裾を軽く握りながら後ろにピッタリとついて来る俺と同じ高校の女生徒が居るからですよ。
なんでこうなったかだって? 少し時間を遡(さかのぼ)ることになるんだがな?
数十分前のことだ──
「おーし、今からSHR(ショートホームルーム)始めんぞ……と言っても何も連絡することが無いから解散! 気をつけて帰るように!」
我らが担任のいい加減なSHRが終わり、クラスメイトたちは思い思いに行動し始めた。友達と一緒に帰る者、部活に向かう者など様々だ。
俺は騒がしい教室をあとにして図書室に向かった。
階段を駆け降りていき、図書室へと続く長い廊下を疾走していく。
両開きのドアをくぐり抜けると、本独特の紙の匂いが俺を出迎えてくれた。
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