お前トマト、俺キュウリ

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「ふええ!?な、なんですかあこれ!!」 いまいち状況が呑み込めなくて眉間にしわを寄せていた俺の耳に、俺のとは明らかに違う性の高い声が。 その声は俺の右耳の鼓膜をダイレクトに刺激してきた。 どうやら隣人のようだ。 もっとも、ただ隣に浮いているだけの関係が隣人という名称なのかはまた別問題なのだが。 声のした方向を向く。 とんでもない美少女がそこにいた。 ――のであればよかったのだが。 残念ながらそこにいたのは絹糸のように滑らかなストレートの髪を緩く肩の位置で結わえ、前髪を零れそうな大きな瞳にかからないようぱっつんに切り揃えただけの、陶器のように白い肌と小さな鼻、紅をさしたように赤い唇をした、ただの平凡な女だった。 実に残念だ。 もっとその、華奢な体が筋肉まみれだったら。 その小顔がガチガチの真四角であったならば、こんな状況であるのにも関わらず声高らかに永遠の愛を誓って見せたのに! 「ひうっ!? な、なんか凄く失礼なことをどこかの誰かに言われた気がします!」 どうやら勘は良いらしい。 しかし惜しい。正確には君の左隣の俺が思ったのである。 そうして俺と同じように体をぶらぶらと揺らす平凡女を観察していると、なんと視線がかち合ってしまった。 「……あっ」 思わず目をそらす。やましいこと何もしてないのにそらす必要なかったよな、なんて思うが、一度逸らしてしまった以上引っ込みがつかない。 仕方がない、タイプには掠りもしないが平凡女の壮絶な前髪ぱっつんを凝視することとしようじゃないか。 そう決意して、女の頭上を見やる。見やってしまった。 そこで俺は、人類では到底起こるべきはずのない、いやむしろ俺自身の今までの人生17年間全てで培ってきた常識を根本から覆されるような図を目撃してしまう。
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