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呼び鈴を押そうと手を持ち上げた所で、俺はふと足元のそれに気が付いた。
扉の下から、何やら茶色い液体が染み出している。
「…………」
やはり、か。
前回ここを訪れた時から、半月近くの日数が経っていた。
俺は革靴の爪先を濡らす茶色い液体を凝視しながら、ごくりと喉を鳴らして生唾を嚥下する。
覚悟を決めてドアノブを掴んだ。
そして一気に引き開ける。
ザアァーッ!
シベリアかと錯覚するような、寒風が吹き付けて来た。
それと同時に、潮が退くように去って行く黒い甲虫の群れ。
視界を埋め尽くすゴミの山。山、山……。
山の向こうからは、酷使され続けているエアコンの轟々という悲鳴が響いて来る。
「やはりかぁああ~!!」
扉の向こうは、魔窟だった。
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