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「兄さん、そっちどう?」
ユイが埃を被った蔵書を棚にしまいながら訪ねる。
「こっちもひでぇ。埃塗れだ」
ユイと反対側に置かれている棚の前で、オレは収納されている蔵書を手に取る。マスクのお陰で咳き込む事は無い。
それにしても、
「オヤジのやろぉ……、よりによって何で此処の掃除を、今の今まで放っておいたんだか」
「仕方ないよ。父さん、せせらぎがたくさんいるゴミ屋敷でも、平気で暮らせる程に物臭な人だもん」
「せせらぎ……? って、ああ、ゴk――「言わないでっ!!」……スマン」
ユイの言う『せせらぎ』ってのは多分、『ゴキブリ』の事だな。前に貸した漫画で、『ゴキブリ』について話していた主人公たちが、「せせらぎとかさらしなとか、そういう名前だったら」とかなんとか言っていたから、それを真似ているのだろう。
そして、此処も十分『せせらぎ』が出そうなんだが、それを言ったらきっと、手当たり次第にモノを投げられるだろう。
「まったく……。兄さんはもう少し気遣いを覚えた方が良いよ」
背中を向けていても分かる程、大げさに嘆息するユイ。
それを受け、「悪かったよ」ともう一度謝りつつ、すっかり日に焼けてぼろぼろになった蔵書の一冊を手に取る。
「しっかし、これもう捨てちまっても良いんじゃねぇか?」
「ダメだよ。一応、ここにある物は全部、父さんがこっちに来る時に、実家から持ってきた大事なモノって言ってたでしょ?」
「つってもよ、これすぐに破けちまうだろ」
「でも、読めない事も無いじゃない」
「それでも、オヤジは本の内容全部覚えてんだろ?」
「完全記憶能力、だっけ? 凄いよね」
ウチのオヤジは、一度見た物を決して忘れない。脳筋みたいながたいをしている割には、頭が良いのだ。オレたちも、何度学校の勉強で助けて貰った事か。
「んで、オレやユイにはこの本は読めない。はっきり言って、置いておく意味がねぇぞ」
ここにある本は全て、日本語で書かれていない。英語でもなければ、ドイツ語フランス語など、有名な言語ではなく、かなりマニアックなモノである事は確かだ。
「でも、それも次の誕生日で、兄さんとワタシが十六になったら、それを教えてくれるって話だったよね?」
「あぁ、ンな事言ってたっけか」
「言ってたよ」溜息交じりに言うユイ。
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