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「センセ」 茜色に染まった教室。 窓際に佇む人影に声を掛ければその人は長い髪を揺らしてピクリと肩を跳ねさせた。 「……っと、三島君」 隠しきれない動揺を滲ませた先生は雑に手で目許を拭って振り返る。 「泣いてたの?」 「あ、やだ、変なとこ見られちゃった。ほら、今日で最後だし、感慨に浸っちゃって。運動場とか凄く懐かしいし」 開け放たれたドアから体を滑り込ませれば、いつもより口数多く返ってくるのは恥ずかしさからなんだろうと思う。 「教育実習、今日で終わりだもんねー島本先生」 ゆっくりと近付きながら、あえてそう呼んでみた。 そう呼ばれるのも今日でおしまいだろうから。 「先生かーやっぱり何かくすぐったいな、明日からは就職に焦るただの大学生だもん」 泣いていたのを誤魔化すように彼女は苦笑いを浮かべて窓の外に顔を向ける。 先生の仮面を半分脱いだその人に胸に秘めた想いがふつりと沸いて、俺はきゅっと手のひらを握りしめた。 その横顔が、泣くのを堪えてるようにみえたから。 ねぇ、センセ? 本当はさ、泣いてた理由、それだけじゃないの、俺知ってるんだ──
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