止まった時間

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「そんなんじゃねえって、どういう意味だよ?」 少しムキになった口調だったけど、やっぱり家庭の事情ってやつなんかね。 こういうのはあまり聞くような事じゃねえな。 「いや、やっぱ良いや。無理やり聞き出すつもりもねえし。弟のプレゼントって事だけ思っておくよ」 「…ごめん、言い方が悪かった」 「気にすんなよ。口の悪さも紫の良いところだろ」 「良いところ…?」 「そうそう、だから気にすんな。紫は紫のままで良いってこと」 一応励ましてるつもりだけど、ちゃんと励ませられてるかわからん。 何か急に難しい顔してる。 俺だって何言ってんだろって気分ですけど。 しかし、人混みがすげえ。 さっきよりも人が多くなってる気がする。 「大丈夫か紫?」 「大丈夫……じゃない」 紫の方を見ると何度も人にぶつかりながら進んでいるみたいだ。 こら、ガン飛ばすのやめなさい。 しょうがない、はぐれたら見つけるの大変そうだもんな。 俺のバッグにも余裕はあるし。 俺は通りの端に寄り、紫が追い付くのを待つ。 あいつ俺の事を見失ったな。 俺は見えてるけどね、辺りをキョロキョロしてるし。 俺の事を探してる。 「紫ー、こっちだ」 なんて言っても聞こえないよな。 …しゃーない。 俺は一方に進む人混みを逆に歩き出し、紫の所まで掻き分けて進んだ。 そうして目の前まで来た所で未だに俺を見付けられない紫の手を強引に掴んだ。 「――――ッ!!?」 「そんなビックリすんなよ、俺だ」 「なんだ、お兄さんかよ。痴漢かと思ったじゃねえか」 「なに、痴漢が怖いの?」 「いや、お兄さんだって気付くのにあと一秒遅れてたらぶん殴ってた」 「容赦ねえな。まぁ、はぐれたら心配するから気を付けろよ。例え紫でも女の子を置いてくのは気が引けるからさ」 「…う、うん。わかった」
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