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意味深な恵の口調に、佑は視線を上げると不思議そうに首を傾げる。
「いや、いつもと同じやけど?」
まったくいつもと変わらない佑の様子に、きっとギリギリまで秘密にしておくつもりなのだと勝手に解釈すると、恵は思わず問いただしてしまった自分が恥ずかしくなり慌てて席へと戻る。
「……あっ……そっ、そうかぁ……」
何やら落ち着きがない恵の様子を訝し気に見詰めていた佑だったが再びコーヒーカップを口元に持っていった途端、大事なことを思い出し声を上げる。
「あっ! 今思い出してんけど、会社の飲み会あるんやったっ」
「えっ?」
驚いたように目を丸くした恵に、佑は申し訳なさそうに眉を潜めるとコーヒーを一口啜り言葉を続けた。
「せやから、いつもより遅くなるなぁ。飯もいらんからお前も外で食うて来いや」
それっきり、何でもないようにトーストにかぶりついた佑の姿に、恵は目をぱちくりさせると肩を落とした。
「……うん」
(まさか……今日、なんの日か忘れてとる訳ちゃうよな……)
そんな思いが頭を過り不安に駆られる。
眉を八の字に曲げながら、もそもそとトーストを齧っている恵に気付くと、佑は不思議そうに声をかけた。
「なんや、そんな顔して?」
「いや……別に……」
「ふ~ん」
自分から聞いといて興味無さげに再びトーストを食べ始めた佑を、恵は恨めしそうに見詰めると深い溜息を吐いた。
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