第一章

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そして 最後の方で ノアと指の動きが 異なった。 彼は アルファベットを書いた。 けれど 自分が 書いたのは 数字だ。 『ノア!違う…そこは 「C」じゃない。「1」だよ。』 えっ?と ノアが 振り返る。 カルマは ノアに変わって 解答を書き換えていく。 『ここで 「C」を使うと 答えが全然 別のものになるよ。この数式を読み解く場合 「1」が正しいんだ。』 自分でも 何故 それが分かるのか不思議では あるけれど 確信できる。 『そう…やっぱり 君には 敵わないみたいだね。続きを お願いするよ。』 ノアは そう言って カルマの後ろに一歩下がった。 『うん…。何か 自信があるんだ。出来るって…。』 あともう少しだ。 この数式を 順に追えば 答えは 見えてくる。 この問題が 示している穢た記憶は 女性のものだ。 貧しい彼女は 生活に困りながらも 質素に倹約をしながら 真面目に生きてきた。 けれど そんな聡明な彼女に 悲劇が起こってしまった。 その悲劇は 地下牢のような場所で 野蛮な連中に 監禁され 性を犯されてしまう。 ようやく 解放された彼女は 変わり果てた姿となった。 開かれた扉は 彼女にとって 新たな悲劇を生む事になる― この問題の答えは― カルマは ノアに 振り返る。 ノアは ニコッと笑って 頷いた。 『大丈夫…僕も君と同じ答えだよ。』 ノアの言葉に ホッと息をついた。 そして、ノアに答えを告げる。 『答えは 「誕生―」。この記憶の持ち主は 子供を産んで すぐに殺してしまったみたいだね。』 こんな事実は 確かに 消したい記憶だろう。 『そうだね…。望まぬ妊娠…望まぬ出産…彼女にとって 子供は 罰を与える対象にするしか無かったんだろうね。そうすれば 悲劇が終わると思ったんだよ。終わるわけなんて無いのに…ね。』 ノアが、呟くように言葉を返す。 そう― 悲劇は 終わらない。 穢た記憶は 消えない。 人々は 過去に逆らえない。
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