第一章

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僕とノアの間に しばらく沈黙が続いた。 互いの姿が見える範囲内で 適当に腰掛けていた。 きっと ノアは 距離を計っているのだろう。 毎回 記憶が 巻き戻される自分に どんな風に接しようか 彼は 綿密に 計画している。 僕の記憶を塗り替えたくて 仕方ないのだろう。 先程の答えも もしかしたら 純粋に間違えた訳では無いのかも知れない。 真実は いつも ノアによって 隠されている。 実際 自分は 彼がどんな存在かも知らないのだ。 このパズルだって 僕の提案だった。 ノア自身は あまり 乗り気では 無かった。 ただ 僕がしている姿を見ているだけで 彼自身は 協力的な姿勢を見せる気配さえ感じなかった。 けれど あの問題が 出された辺りから 彼の様子が変わった。 問題は ―教会ノ聖女と悪魔ノ遣イ― 短い文章に 悪戦苦闘した末に 出された答えが 「宝箱」だった。 ガラクタの形も「宝箱」と出た。 小さな教会のシスターは 捨てられた子供達を 育てていた。 教会は 僅かな寄付で成り立つ。 寄付で得られる収入など たかがしれていた。 シスターと子供達の食事は 夜だけだ。 パンさえ 買えず 野菜の切れ端をスープにして 何とか 飢えを凌ぐけれど そう長い間は 続かない。 体力が無い 弱い 子供達は 次第に 痩せ細り 起きて歩く事さえ ままらなくなってしまった。 シスターも 同じようにしか食べていない。 これ以上 どうする事も 出来ない。 せいぜい自分が出来る事は 神に祈りを捧げる事だけだった。 小さな子供達を どうか お守り下さい―と。 そして 小さな教会に奇跡が 訪れた。 黒いスーツに身を包んだ恰幅のいい男性が 現れた。 シスターは フラフラな状態で ありながらも 彼を礼拝堂に案内する。 高級感溢れる装いだ。 もしかしたら 寄付を弾んでくれるかも知れない。 恰幅のいい男は シスターに 取り引きを持ち掛けた。 どうか 子供達を 引き取らせて欲しいと…。 その代わりに 多額の報酬を約束するとの話だった。 シスターは その話に 不信感を抱いた。 引き取って貰えるなら 有り難い。 きっと 子供達は不自由無く暮らせるだろう。 ここに居るより、ずっと明るい未来が待っているだろう。 けれど 報酬は 貰えない。 人身売買になってしまう。
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