第一章

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シスターは 男に告げた。 報酬は 要らないと…けれど 子供達は 引き取ってほしい― 男は シスターの言葉に 優しく微笑んだ。 貴女は とても 清らかな方だと―。 だから 教会に寄付を 定期的に 送りましょう。 定期的に 寄付が貰えるなら この飢えの地獄から 解放される。 この男は 紳士的で 信頼出来る。 そうして シスターは この取り引きを承諾した。 その日、子供達は 引き取られて 今まで見たことも無いような大金が 置いて行かれた。 シスターは その大金を神に捧げ しばらくぶりに 食事らしい食事にありついた。 パンを手にしただけで 涙が 零れた。 子供達も今頃 美味しい物を食べているだろう。 その後 シスターは 人並みな生活を続けていた。 定期的に送られてくる あの男の寄付の お陰だ。 最近、捨てられた子供達の面倒も ちゃんと見てやれる。 食事も一日二回 食べさせてあげられた。 子供達の元気な姿を眺めながら 幸福に浸る。 神に感謝をした。 それから 半年も経った頃だ。 あの男が また 教会に訪れた。 シスターが 感謝を告げる。 男は 帽子を外して 一礼する。 そして 男は シスターに お願いがあると用件を切り出した。 また 子供達を引き取りたいと言うのだ。 前に 引き取った子供達は 全員で8人だ。 更に引き取るとなると 15人になってしまう。 さすがに 多過ぎると思った。 それに 今は あの時のように 飢えに苦しんでもいない。 シスターが 渋っていると 男が それを察したかのように 新たな提案を持ち掛けた。 この教会は 小さくて 古い。 所々 継ぎ接ぎで ごまかしているが 女である自分には それくらいの 補修しか出来ないのだ。 男の提案は 教会の建て直しだった。 貧しい故に、捨て子は どんどん増えていく もっと 広くした方が 良い。 それに 古い建物は 危険だと 男は 力説した。 その建て直しの間 貴女には 住居を用意しましょう。 子供達は こちらで 面倒を見ます。 男の言葉に シスターは すっかり 言いくるめられてしまったのだ。 それから 一週間後 教会は 建て直しに入り 子供達と別れて シスターは 男が用意した住居での生活を始めた。
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