第一章

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彼は 忘却だ。 人類は 彼の存在に 気付く事も無い。 穢た記憶だけを 封じ込めて また 新たな穢た記憶を刻んでいく。 パズルの問題を解き明かした時も 彼は 答えには 出なかった隠された深い真実を知っていた。 ずっと 人類の事を見ていた。 悲劇を ただ ずっと見てきていたのだ。 彼に 出来る事は その人類の穢た記憶を封印してあげる事だけだ。 そして 彼が 穢た記憶を封印する事によって 新たな悲劇が 生まれてしまう。 穢た記憶は そうして 連鎖していくのだ。 果てしなく続く 悲劇を 止める事が 出来ない。 だから 彼は ここに 居たいのかもしれない。 でも 僕は 必ず その連鎖を 断ち切って ノアを 救い出したい! だって 僕には それしか 出来ないから―。 例え、それが間違えている選択だとしても― だからー カルマは ノアの差し出された手を 取った。 『…ノア。僕の答えは 変わらないよ。どんなに 時間を巻き戻しても 何度も 同じ事を繰り返しても…。』 『…カルマ。君は 本当に 頑固で 困るよ。でも… ありがとう。』 ノアは 嬉しそうに 笑った。 だから 僕も 彼に 微笑み返した。 笑顔は優しい気持ちにさせる。 相手の気持ちも自分の気持ちも…。 次からは笑顔をたくさん作ろう。 君をもっと笑顔にしたいから― 狂った時計台の鐘の音が 段々と大きさを増す。 カルマは 次第に 意識を失っていく。 時間が 巻き戻されていく。 カルマの記憶は 意識を失うのと同時に奪われていく。 朦朧とした意識の中 カルマが 見た最後のノアは 涙に濡れていた。 ノアの頬に手を 添えようと 手を伸ばすが 届く前に カルマの意識が 消えていく。 ああ…そうか― 僕は ずっと 間違えいたのかも 知れない。 彼は よく笑う。 それは ずっと 僕にも 笑って欲しかったからなんだ。 だから 君は、今、泣いているんだよね? …ノア…ごめん― ノアは ただ 単に 僕を幸せにしたかっただけだったんだ―
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