第一章

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『大体 ここが どんな場所か 分かった?』 彼の言葉に 僕は また 頷いた。 『それなら 今度は 僕の名前だね。正式名もあるんだけど…僕はね 君が付けてくれた名前の方が好きなんだ。』 『僕が?』 びっくりした。 だって 他人に名前を付けるなんて 有り得ない事のような気がしたからだ。 『君が付けてくれた名前はね 「ノア」だよ。一番 最初に出会った時に 君が僕に与えてくれたんだ。』 ノア…希望を乗せた箱舟だ。 僕は きっと 彼を信頼していたんだ。 でなければ そんな名前など 与えたりしない筈だ。 『君らしくて 僕は とても気に入っているんだ。』 彼は 本当に 嬉しそうに そう言った。 『…僕は?僕の名前を君は 知っているんだろう?』 自分の名前を取り戻せば 記憶を取り戻せるかもしれない。 『知っているよ。』 彼の唇が ゆっくりと動く。 『カルマ…。』 カルマ…それが 僕の名前。 でも 「知った」という感覚でしか無い。 『君はね…カルマ。この忘却の空間に落とされた「宿命」なんだよ。』 僕が 宿命? 『どうして…僕は ここに落とされたの?』 『それはね…僕の手を取ったからなんだ。』 君の手を 取ったから? それは 正解だったのだろうか? けれど その時の記憶など 全く無い。 答えが 解らない。 カルマが 両手で頭を抱えた。 その手に ノアの手が触れた。 『また 悩んでる?カルマは いつも そうなんだよね。一人で悩まないで欲しいんだ。答えも正解も 僕と一緒に探そう。』 ノアと一緒に…。 僕は 何故 彼の手を掴むのだろう? どうしたいのだろう? 二人で探せば 答えは 見付かるだろうか? 正解を手にする事が 出来るのだろうか? 今の僕には それすらの判断も出来ない。 記憶が バラバラに壊れていくばかりで その崩壊の音が ずっと 鳴り響いて行く―
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