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民家から光が消え、街の裏の顔が跋扈する中、それをかき消すようにネオンの光が闇を照らし、いかがわしい誘惑の言葉が夜の静寂を突き崩していた。
この街、所謂風俗街を歩くのはほとんどが男で、その大半はスーツを着て黒い鞄を提げていた。
「そこのお兄さん!いい子いるよ!寄ってきな!」
「サービスタイムだよ~!今なら半額だ!」
道のそこかしこには各店の呼子がおり、半ば強引に店内へ連れていかれるというのも少なくない。
たくさんの店がある中で、その角でひっそりと佇むように、しかしどこよりも人の集まる店があった。
KAMABERー美野
この界隈、いや世界で知らない者はいないであろう名前が、その店に掲げられていた。
その名の通りBERーー飲み屋であり、店員は全員がオカマである。
そこにまた、2人組の男性が入っていった。
「「「いらっしゃいませ~!」」」
男が精一杯女のような声を出した裏声に迎えられ、店内へ足を踏み入れる。
内装は実に簡素で、L字型のカウンター席と、入り口から見て左にテーブル席が四つ並んでいた。
淡いオレンジの光が店内を優しく照らし、客もその雰囲気を壊さない程度に酒を愉しんでいた。
「今日はママいないの?」
カウンター席に座っていた一人の男性がボトルを持ってきていた、茶色の髪が毛先でカールしているいかにも女性という感じの店員に話しかけた。
「そろそろきますよ~」
声は作っているのか、どこか男の部分を感じさせた。
「みんなぁ~、お・ま・た・せぇ~」
媚態を含んだ、渋く低めに響いた声の主は、カウンターの奥からゆらり、ゆらり、と揺れるように現れた。
「ママその服新調したの?」
先ほどの男性が声をかけた。
ママと呼ばれた20半ばほどの彼は、190cm近くあるだろうか、すらっとした長身で、肌は浅黒く、形のいい頭はスキンヘッドで左の側頭部にハートを象った刺青が入っていた。
垂れがちな目はマスカラか何かで黒く、瞼は薄い青色となっており、ぷるっとした厚めな唇は赤い口紅で染められていた。
「そぉなのよぉ~!表参道にできたねぇ、iGOって服屋さんで安くなっててねぇ~、思わず買っちゃったのよ~!」
左手を頬に当て、右手は招き猫のように手首を上下に振っていた彼の服装は、女性物の真っ白なジャケットに薄いピンク色のブーツカット、ピンクベージュのヒールを履いていた。
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