無機質の世界

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…………暑い。  毎年の様に最高気温を高めている現代の日本では、ヒートアイランド現象何のその。  まるでそれが、一つの恒例行事の如く、当たり前の様に更新されていく。  背中が透けるほど汗が染み込んだカッターシャツは、営業マンの勲章である。  しかし、ネクタイを緩めカッターシャツの袖をまくった男は、あまりの暑さにうなだれながら、自動販売機のボタンを押した。 「どうしろと言うんだ……………」  営業の仕事に就職して早くも十年。先輩どころか後輩にまで営業成績を抜かされる始末。  根気よく続いてきたこの仕事が、いつまで続けられるか考えながら、缶コーヒーのフタを上げる。  チビチビと飲みながら道路脇を進むと、子ども達の笑い声と共に広くもない公園が見えてきた。  噴水を囲うようにして並べられた、ベンチの一つに腰かける。  辺りを見回すと同じようにウナダレた営業マンと、噴水周りに集まった母子が騒ぐのが見えた。
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