無機質の世界

3/3
前へ
/167ページ
次へ
 営業成績は中の下、頑張ったところで実際問題、中の中にしかならない。  向き不向きの問題ではなく、体力のある若手は数で攻め契約を結びつけ、ベテランはお得意様が多く最早相手にすらならない。  宙ぶらりんな年齢層なうえ、若い間に営業を程ほどにしか頑張って来なかった自分には、現在打つ手がなかった。  とはいえ、それなりには頑張って来たつもりだが、才能のある人材が本当に存在する。  そんな過酷な事実も相まって、会社のお荷物組に入るか入らないかの瀬戸際である。 「まぁどうせ変わらねえし」  誰に愚痴るわけでもなく呟く。世界はいつもくすんで見えるのは、きっと自分の所為なのだろう。  バッティングセンターとカラオケと居酒屋があれば、世は天下泰平である。 「あ~~~~!ビール飲みてぇ」  空を仰ぐようにした右手は、子どもの頃のように血潮を映さない。  そんな当たり前の日常の中、男は夏の日差しに体力を奪われ営業周りの疲労も祟ってか、他のベンチの営業マンと同様に何時の間にか意識を失っていた………………
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加