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君がくれた色彩
……………淡く蘇る夏の日。
その日も確か、最高気温を大きく塗り替えた年だった。
蒸し暑い中、声を出しながら運動場を駆け回っていた僕らには、それが全てでしか無かった。
「おい!里中(さとなか)!もっと声ださねぇか!」
バッターボックスに立った監督から檄が飛ぶ。
自分の名前を呼ばれ、悔しさで噛みしめた歯茎を大きく開け、渇いた喉で叫んだ。
「もういっちょょょょょう!お願いしますっっっ!!」
ーーーーーーキンッッッッッ!!
甲高い金属音と共に、白球は此方めがけて飛んでくる。
炎天下の中、僕らの時代にはまだ根性論が残っていた。
今でこそ水分補給は当たり前の時代だが、昔は喉が渇いても練習が終わるまでは何も口には出来なかった。
ーーーーーー意識が朦朧とする。
熱で歪む運動場を見上げると、打球が三個に見えた。
そこでようやく気づいた。暑さだけではなく自分の意識が朦朧としていると。
ーーーーーーバンッッッッ!!
打球を取りそこね、頭に直撃した。鈍い音と共に自分の倒れる音が聞こえ意識はそこで途切れた。
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