君がくれた色彩

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 始めての交換日記は結局、自分のプロフィールを書くにしか至らなかった。  一般的にも交換日記はさほど書く事も無く、今日あった出来事や、教師の愚痴が殆んどである。  学生生活とは多くの物が無意味で出来ている。しかし、その無意味こそが自分と言う人間を育む事はあまり知られていない。  ただ享受し、いつの間にかその日々が思い出となり、人生での糧となるだけである。 ”里中君って野球部なんですね、今年最後ですね頑張ってください”  自己紹介を書いて渡した返事が、返って来たのは次の日だった。  彼女の丸い文字や、語り口調の様な文章を見るだけで里中の心は躍った。  ただ彼女を思い、悠久にも似た錯覚を覚えながら、返事を拙いながら返す。  お互いこの事は、他の人間には知られたくないという事も有り、放課後に相手の机に入れるという方法で交換する事にした。  放課後の他のクラスの教室は、それだけでノスタルジックにも幻想的にも見えた。  人気が居なくなるのを見計らって、こっそりと入りノートを机に忍ばせる。  そんな、小さな秘密が二人を近づけている気がした。  ただそれだけの事で、胸は高まり日に日に彼女が、好きになっていく自分がそこに居た。
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